地方創生の文脈で語られることが多い「移住」。自治体がこぞって移住者誘致に力を入れる中、どの都道府県がもっとも「外から人を惹きつける力」を持っているのでしょうか。本記事では、総務省の「住民基本台帳人口移動報告」のデータ(※2025年参考値など)をもとにランキング化。都市部を除く地方の中で転入率の高いトップ3を発表するとともに、なぜ高い転入率を維持しているのかの要因も考察します。

出典:総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」(2026年2月3日公表)
※本記事の「転入率」は、同報告書が公表する公式の移動率の数値をそのまま使用しています。全国平均値(2.02%)も同資料に基づきます。また、同統計が対象とする「転入者」には、進学・就職・転勤・結婚・住宅購入・U/Iターンなど住所を移動した人すべてが含まれます。

都道府県別 転入率ヒートマップ(2025年)

転入率(人口に対する他県からの転入者の割合)の全国平均は2.02%。下図を見ると一目瞭然ですが、上位は東京都(3.23%)、千葉県(2.62%)、神奈川県(2.56%)といった首都圏と、京都府(2.36%)、大阪府(2.10%)などの関西圏が独占しています。転入率という指標の性質上、進学や新卒就職、大企業の転勤によって圧倒的な人数の出入りが発生する「三大都市圏」が構造的に上位に来るのは必然と言えます。

三大都市圏を除く地方で転入率の高いトップ3は?

大都市圏の中心部以外にも、全国平均(2.02%)に迫る高い転入率を示す県があります。地方エリア限定の転入率トップ3は以下の通りです。なお本記事では、2025年の転入率上位から首都圏(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県)と、京都府・大阪府を除いた道府県を、便宜上「地方」として比較します。

  • 地方1位:滋賀県(全体6位/2.12%)
  • 地方2位:福岡県(全体8位/2.01%)
  • 地方3位:佐賀県(全体9位/1.99%)

【重要な視点】「率の上昇」=「人数の急増」ではないというリアル

ここで、データを見る上で重要な事実を1つ提示します。転入率が高いからといって「過去と比べて移住者が爆発的に増えている」わけではありません。過去10年間の「実際の転入者数(人数)」の推移を見ると、別のリアルが浮かび上がります。

  • 滋賀県:2万7354人 → 2万9797人(+8.9%)
  • 佐賀県:1万5548人 → 1万5834人(+1.8%)
  • 福岡県:10万1873人 → 10万2453人(+0.6%)

滋賀県が8.9%増と実数を伸ばす一方、福岡県や佐賀県の転入「数」は10年間でほぼ横ばいです。つまり、近年の転入「率」の上昇は、「分母となる県全体の人口が減る中で、外から入ってくる転入者数(分子)を維持しているため」に起きている現象といえます。

実際に滋賀県、佐賀県、福岡県の3県の人口は、国勢調査では2020年から2025年にかけていずれも減少しています(滋賀県▲1.50%、福岡県▲1.04%、佐賀県▲3.73%)。分母が縮む中で分子(転入者数)を横ばい〜微増で守り切っていることが、外から入ってくる人の存在感を相対的に高めている構造となっているのです。

日本全体の人口が減り、地方間のパイの奪い合いが激化する現代では、10年前と同じ人数の転入者をキープし続けるの難易度が高くなりつつあります。地方で暮らす総数が減る中、コンスタントに入ってくる新しい移住者が地域社会に与えるインパクトは、10年前よりも相対的に大きくなっているのです。

滋賀県、福岡県、佐賀県の高い転入率を支える要因とは

では滋賀県、福岡県、佐賀県の3県は、なぜ人を惹きつける力を維持・拡大できているのでしょうか。過去10年にわたる独自の戦略からその秘密を深掘りします。

滋賀県:京都からの「脱出組」の受け皿を極めた10年

地方トップ、そして全国でも6位に食い込んだのが滋賀県です。最大の武器は、JR新快速で京都まで10分、大阪まで40分というアクセスの良さです。一方、滋賀県がこの地位を確固たるものにしたのは過去10年の動きも見逃せません。

滋賀県に隣接する京都市では過去10年、インバウンドの増加や投資マネーの流入によって地価とマンション価格が高騰。厚生労働省が2022年に公表した人口動態統計を分析すると、京都市に住む結婚・子育て期にあたる25〜39歳は、「府南部、大阪府、滋賀県、東京都を含む関東」へ転出超過の傾向が見られます。つまり、結婚・子育て世代が求める条件に合った住宅を確保するのが難しくなっていることが分かります(京都市「京都市の人口動態について」)。国土交通省の地価公示(鑑定評価書)でも、大津市の住宅地について「周辺市や京阪神方面からの流入も見込める」と示しています(国交省 鑑定評価書(大津))。滋賀県(特に大津市や草津市)はこの10年間、駅周辺の計画的な街づくりと大型商業施設の誘致を進め、京都市より手頃な予算で、ゆとりある戸建てが持てるというポジショニングを確立してきたのです。

一方、大津市は2024年度、2025年度と2年連続で待機児童数が全国ワースト1位になっています。もっとも大津市によれば、待機児童数は2025年度(令和7年度)の132人から2026年度(令和8年度)は31人に減少しています(大津市「保育所等待機児童数について」)。ただし、この状況は長年ワーストだった状態から改善し始めた段階に過ぎません。必ずしも待機児童の問題が解消したと言い切れる段階ではありません。こうした状況でも子育て世代から選ばれ続けているのは、住環境のコストパフォーマンスと交通アクセスの強さという余りある魅力を持っているからだと言えます。

福岡県:若者を吸い込む「天神ビッグバン」が牽引した10年

全国8位の福岡県は、地方都市の成功モデルとして長く君臨しています。「九州一円の若者を吸い込むブラックホール」とも呼ばれますが、この10年の福岡は、単に若者が集まるだけでなく「起業と雇用のハブ」として劇的な進化を遂げました。

大きな転機となったのは、2014年(平成26年)に福岡市が国家戦略特区である「グローバル創業・雇用創出特区」に指定されたことです。この特区指定による規制緩和などを足がかりに、翌2015年には大規模な都市再開発プロジェクト「天神ビッグバン」が始動しました(福岡市「福岡市のあゆみ(年表)」福岡市「天神ビッグバン」)。

この10年で、福岡は古くなったビルを次々と最新のオフィスビルに建て替え、規制緩和や再開発、スタートアップ支援などを通じて企業・雇用の集積を進めてきました。進学先としての求心力に加え、卒業後の雇用の受け皿も少しずつ広がっていることが、「東京に出なくても働ける」という選択肢を福岡に生み出しつつあると言えるでしょう。空港直結の利便性など、コンパクトシティとしての暮らしやすさも、福岡の求心力を支える要素となっています。

佐賀県:福岡の急成長を「したたかに」取り込んだ10年

今回もっとも注目すべき健闘を見せたのが、全国9位の佐賀県です。国土交通省の地価公示(鑑定評価書)でも、鳥栖市の住宅地について「膨張する福岡都市圏の恩恵を県内で最大に享受」していると分析されており(国土交通省 令和8年地価公示 鑑定評価書(鳥栖))、特に鳥栖市や基山町は、福岡市内へのアクセスの良さを背景に住宅需要を集めています。

佐賀県の過去10年を振り返ると、県東部(鳥栖市・基山町周辺)の著しく発展しています。鳥栖市の公式移住サイトで「博多へ最短12分!」と打ち出す通り(鳥栖市公式移住サイト)、新鳥栖駅から博多まで九州新幹線で最速12分という交通利便性を背景に、鳥栖市・基山町は福岡都市圏の住宅地として支持を集めてきました。国土交通省の地価公示(鑑定評価書)でも、鳥栖市の住宅地は「福岡市に通勤する居住者」が主な需要者の1つとされ、基山町についても「福岡県に勤務先がある個人」や「福岡県等同一需給圏外からの転入者」が需要を支え、「福岡県や鳥栖市に対する割安感から住宅地の需要は増加傾向」と分析しています(国交省 鑑定評価書(鳥栖)同(基山))。佐賀県によれば、2025年(令和7年)国勢調査(速報)で2020年から人口が増加した県内自治体は鳥栖市・上峰町・基山町の3市町のみで(佐賀県「令和7年国勢調査 佐賀県の人口概要(速報)」)、県全体が人口減少する中、この東部エリアの底堅さが際立っています。

さらに県全体として、2015年度から「子育てし大県(たいけん)」というスローガンを掲げ、子育て支援策に力を入れてきました(佐賀県議会 平成27年6月定例会資料佐賀県「子育てし大県さが」)。近年ではリモートワークを活用し、移住前の仕事を続けながら佐賀へ移る「転職なき移住」の事例もみられるようになっています。

まとめ

高い転入率を誇る地方トップ3県(滋賀・福岡・佐賀)の10年史を紐解くと、地方創生における「勝ちパターン」が見えてきます。それは、滋賀や佐賀のように「巨大な都市圏(京都や福岡)の高騰化を逆手に取り、最強のベッドタウンとしてインフラを整え続けること」。あるいは福岡のように「自らが広域の受け皿となり、若者が働きたいと思える産業・雇用を10年がかりで作ること」です。

今回取り上げた3県に共通するのは、一過性のPRや移住補助だけではなく、若者や子育て世代の暮らし方に関わる都市基盤や雇用、住宅環境を長期的に整えてきた点です。人口減少が進むなかでも転入者数を維持している背景を考えるうえで、こうした10年単位の取り組みは重要な要素の1つと考えられます。

【出典】
住民基本台帳人口移動報告
令和7年国勢調査 人口速報集計

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地方創生ジャーナル編集部

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