特集

データで見る有効求人倍率ランキング47/倍率を鵜呑みにしない。山梨・富山・福井、地方転職で見るべき『数字の中身』

地方創生の文脈でたびたび語られる「人手不足」。企業が優秀な人材を確保できず、とりわけ地方では事業の維持や拡大に苦しむケースも少なくありません。では、どの地域がもっとも深刻な人手不足に直面しているのでしょうか。

厚生労働省「職業安定業務統計」の都道府県(就業地)別有効求人倍率(実数)によると、都道府県別では2026年7月は山梨県が1.68倍で全国最高でした。上位3県を分解すると、求人という「需要」と、求職者という「供給」の異なる動きが見えてきます。

データで見る有効求人倍率ランキング47

厚生労働省は「職業安定業務統計」として、都道府県別の有効求人倍率を毎月公表しています。2026年7月分の最新データでは、47都道府県で倍率に大きな差が生まれています。

なお、有効求人倍率は、求職者1人あたりに何件の求人があるかを示す指標です。1倍を上回るほど、企業側が人材を確保しづらい状況にあります。都道府県ごとに有効求人倍率を色分けすると、地域による差は一目瞭然です。

色が濃いほど倍率が高いことを示します。山梨・富山・福井など中部・北陸の県で色が濃く、大阪府・福岡県など近畿・九州の一部や首都圏で色が薄いことが分かります。

具体的な数値を見ると、順位は以下の通りです。

上位5県は山梨県、富山県、福井県、島根県、香川県でした。いずれも1.5倍を超え、求職者1人に対して1.5件以上の求人がある計算です。

下位5県は大阪府、福岡県、神奈川県、和歌山県、北海道でした。大阪府は0.92倍で、47都道府県の中で唯一1倍を下回りました。

47都道府県の単純平均は1.25倍でした。上位県と下位県のあいだには、0.7ポイント以上の開きがあります。

倍率を分解する――「求人の多さ」か「求職者の少なさ」か

有効求人倍率は、有効求人数(分子)を有効求職者数(分母)で割って算出します。同じ高倍率でも、分子が大きいか、分母が小さいかで、地域が抱える課題の性格は変わります。

上位3県の有効求人数・求職者数を確認すると、山梨県、富山県、福井県はそれぞれ異なるパターンをたどっていることが分かります。

※本記事の「求職者数」は、厚生労働省「職業安定業務統計」の都道府県(就業地)別有効求人数を、同じく都道府県(就業地)別の有効求人倍率(実数)で除して算出した概算値です。有効求人倍率は小数第2位までの公表値であるため、実際の有効求職者数とは若干の差が生じる可能性があります。

下表は、2016年~2026年までの山梨県、富山県、福井県の有効求人倍率の順位です。2年おきの7月時点の順位で、カッコ内は当時の倍率を示しています。

山梨県|「求職者」が減って押し上がった急上昇型

山梨県は2016年から2022年ごろまで10位台後半から20位台で推移していました。しかし2024年に7位、2026年には1位へと順位を大きく上げています。有効求人数は2024年7月の2万152件から2026年7月の2万72件とほぼ横ばいだった一方、算出した求職者数は約1万3346人から約1万1948人へ、2年間で約10.5%減少しました。少なくとも直近2年間では、求人という「需要」の拡大よりも、「供給」側の縮小が倍率上昇に大きく影響したことが読み取れます。

供給側を取り巻く背景の1つが、若年層の県外流出です。山梨県の人口ビジョンによると、20〜24歳では男女ともに県外への転出超過が目立ち、2015年頃から高止まりの状態が続いています。2020〜2023年にはやや緩和したものの、2024年には再び増加し、転出先は東京圏、特に東京都が多くを占めています(山梨県「人口ビジョン」)。

一方、山梨県には一定の雇用需要を支える産業基盤があります。2021年(令和3年)の製造品出荷額では、生産用機械器具製造業が31.3%でもっとも高く、食料品製造業9.8%、電子部品・デバイス・電子回路製造業9.1%が続きます(山梨県「山梨の商工業(製造業編)」)。それでも直近の有効求人数そのものは増えていません。山梨県は、産業需要の急拡大によって1位になったというより、求人がほぼ横ばいの中で求職者が減少し、需給のバランスが急速に「供給不足」側へ傾いたことが特徴です。

地方転職・移住先として山梨県を検討するなら、この倍率の高さが「求人が急増しているから」ではないことを理解しておくべきでしょう。応募者が少ないぶん内定を得やすい可能性はありますが、それは地元の求職者自体が減っているという背景の上に成り立っています。

富山県|基幹産業の求人を、少ない求職者数で支える構造維持型

富山県は2016年から2026年まで一貫して全国7位以内を維持しています。有効求人数は2018年7月の3万710件をピークに、2026年7月には2万5229件へ17.8%減少しました。一方、求職者数は2016年7月の約1万5075人から2026年7月の約1万5107人まで、10年間ほぼ横ばいです。求人数がピーク時から減少しても、なお1.67倍という高い倍率を維持しているのが富山県の特徴です。

需要を支えている産業構造を見ると、2021年(令和3年)経済センサス-活動調査では、化学工業のうち医薬品製造業が78.5%を占め、県産業全体でも16.8%ともっとも高い比率です。金属製品製造業では金属製サッシ・ドア製造業が48.3%を占め、住宅用アルミニウム製サッシは全国シェア39.0%で1位。人口1万人あたりの製造業従業者数も1192人で全国1位となっており、製造業が地域の雇用を支える基盤となっています(富山県「富山県の工業について~令和3年経済センサス-活動調査 産業別集計から~」)。

一方で、今後は供給側の縮小が課題になります。富山県の労働需給シミュレーションでは、2040年に県内で約10万人の人材が不足し、製造業や医療・福祉、建設などでは20%を超える人材不足が予測されています(富山県「人材確保・活躍パッケージ」)。富山県は、基幹産業による一定の人材需要がありながら、求職者数は長期的に増えていません。現在の高倍率を維持する「構造型」であると同時に、今後は人口減少によって需給ギャップがさらに広がる可能性を抱えているのです。

医薬品やアルミ製品といった基幹産業での経験・スキルがある人にとって、富山県は求人の実需が比較的安定している地域だと言えるでしょう。将来的に人材不足がさらに進むと見込まれていることを踏まえると、該当する業種の経験者は早めに動くことも選択肢に入れておきたいところです。

福井県|もともと高い就業率が、求職者の少なさに直結する供給限界型

福井県は、2016年から2026年までの計6回の調査のうち、2026年を除く計5回で全国1位でした。2026年も3位で、10年間を通じて高倍率が続いています。有効求人数は2018年7月の2万2004件をピークに2026年7月には1万8740件へ14.8%減少しましたが、求職者数は2016年7月の約1万675人から2026年7月の約1万1427人の範囲で推移しています。求人がピークから減少しても高倍率が続いていることが、福井県の特徴です。

その背景を考える手がかりになるのが、もともとの労働参加の高さです。総務省統計局の調査では、福井県の有業率は81.6%で全国1位、女性も77.7%で全国1位(山形県と同率)です(総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」結果の概要(福井県))。さらに2020年(令和2年)国勢調査では、夫婦のいる一般世帯に占める共働き世帯の割合も61.2%で全国1位でした(福井県「令和2年国勢調査」結果の概要(夫婦の労働力状態))。つまり福井県では、すでに多くの生産年齢人口が働いており、労働参加そのものが全国でも高い水準にあります。

福井県の高倍率は、求人が増え続けて生まれたものではありません。求人がピーク時から減少しても高倍率が続く一方、すでに高い有業率・共働き率を持つことを踏まえると、県内だけで新たな労働供給を広げる余地が大きくないという構造が見えてきます。山梨県のような直近の「求職者減少型」、富山県のような「基幹産業需要の維持型」とは異なり、福井県は高い労働参加を前提とした「供給余力の小さい地域」と捉えることができます。

地方転職・移住先として福井県を検討するなら、地元の労働市場がすでに高い稼働率にあることを理解しておくべきでしょう。地元だけでの人材確保が難しい分、外部からの転職者・移住者をどれだけ積極的に受け入れる姿勢の企業・自治体施策があるかを、あわせて確認しておきたいところです。

3県の「高倍率の構造」は異なる

3県を比較すると、有効求人倍率の高さは、必ずしも「求人が増えていること」だけを意味しないことが分かります。山梨県では直近2年間の有効求人数がほぼ横ばいであるものの、求職者数が減少したことで倍率が上昇しました。富山県では有効求人数は2018年のピークから減少していますが、求職者数はほぼ横ばいで、高い倍率が続いています。

福井県はさらに異なります。有効求人数がピーク時から減少しているにもかかわらず、高倍率を長期にわたって維持しています。その背景を見ると、有業率や共働き率が全国トップ水準にあり、すでに多くの人が労働市場に参加しているという地域の姿が浮かびます。

つまり、3県に共通して見えるのは、求人の増加だけでは高倍率を説明できず、求職者や労働参加といった「供給側」の構造をあわせて見る必要があるという点です。ただし、その構造は一様ではありません。山梨県では直近の求職者数減少、富山県では基幹産業の需要と将来的な労働供給不足、福井県ではすでに高い労働参加と、同じ1.6倍台でも地域が抱えている課題は異なります。

都市部との差はむしろ拡大している

山梨県、富山県、福井県という上位3県の平均と東京都の差を比較すると、2016年7月の0.30ポイントから、2026年7月には0.63ポイントへと広がっています。東京都の有効求人数は同じ期間に251,348件から221,087件へ12.0%減少する一方、算出した求職者数は約184,815人から約212,584人へ約15.0%増加しました。

大阪府も同様で、有効求人数は172,815件から150,242件へ13.1%減少し、算出した求職者数は約145,223人から約163,307人へ約12.5%増加しています。東京都・大阪府では「求人数の減少」と「求職者数の増加」が同時に進んでおり、地方トップ3県とは異なる需給構造が倍率の低下につながっています。

地方転職・移住で「倍率が高い県」を選ぶ前に

地方の高い有効求人倍率は、必ずしも「求人が急増しているから狙い目」を意味しません。山梨県では求人はほぼ横ばいのまま求職者が減って倍率が上がり、富山県では基幹産業の求人需要を将来的な人材不足が支え、福井県ではもともと労働参加率が高く新たな供給の余地が小さい、というように、高倍率の内実は地域によって異なります。

地方転職や地方移住を検討するなら、「倍率が高い=内定を得やすい」という側面だけでなく、なぜその倍率になっているのかという背景まで踏まえておきたいところです。山梨県のように求職者の減少で倍率が上がっている地域では、地元の若年層の流出という背景も併せて理解しておくべきでしょう。富山県のように基幹産業の需要が倍率を支えている地域では、該当する業種の経験・スキルがあるかどうかで有利さが変わってきます。福井県のように労働参加率がもともと高い地域では、外部の人材を積極的に受け入れる企業・施策があるかを確認しておきたいところです。

こうした地域の人手不足は、UIJターンや外国人材の受け入れ、都市部で本業を続けながら地域企業に関わる「地方副業」、移住には至らなくても地域と継続的に関わる「関係人口」など、移住だけに限らないさまざまな形で解消が図られています。これから自治体が打ち出す人材政策の動向も踏まえながら、移住先や転職先を探すのが望ましいでしょう。

【出典】
厚生労働省「職業安定業務統計」(一般職業紹介状況)都道府県(就業地)別労働市場関係指標 有効求人倍率・有効求人数(実数、パートタイムを含む一般)(e-Stat 長期時系列表)
山梨県「山梨の商工業(製造業編)」(2025年2月26日更新)
山梨県「人口ビジョン」(人口減少対策に関する資料)
富山県「富山県の工業について~令和3年経済センサス-活動調査 産業別集計から~」(2023年3月15日更新)
富山県「人材確保・活躍パッケージ」(労働需給シミュレーション公表資料)
総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」結果の概要(福井県公表資料・都道府県別有業率)
福井県「令和2年国勢調査」結果の概要(夫婦の労働力状態)
※参照日2026年9月15日

この記事を作成した人

地方創生ジャーナル編集部

地方創生ジャーナル編集部

地方創生ジャーナルは株式会社みらいワークスが運営する、「地方で働く」を考えるビジネスパーソンのためのニュースサイトです。