インタビュー

音楽の都・浜松とともに歩むヤマハ、多くの人を魅了する音楽普及活動が地域にもたらす価値とは

この人にインタビュー

杉山俊道

杉山俊道さん  / 株式会社ヤマハ 人事・総務部 副部長

佐藤伸行

佐藤伸行さん  / 株式会社ヤマハコーポレートサービス 総務事業部 企画推進グループ マネージャー

企業が地域社会と共創し、新たな価値を生み出すには何が必要か。この問いと一途に向き合い、たゆまぬ活動を通して地域貢献する企業があります。それがヤマハです。楽器メーカーとして「音楽の都」を打ち出す地元・浜松市に賛同し、「音楽」を起点としたさまざまな社会貢献活動に取り組みます。楽器をただ提供するだけでなく、人と人のつながりを前提とした「思い」を共有する姿勢が、多くの人を魅了する取り組みへと昇華させています。

ヤマハは音楽を通じてどのように地域を活性化させているのか。人と人のつながりの重要性をどう考えているのか。浜松という地方都市に拠点を構えることの強みをどう捉えているのか。

今回はヤマハ株式会社 人事・総務部 副部長 杉山俊道氏と、株式会社ヤマハコーポレートサービス 総務事業部 企画推進グループ マネジャーの佐藤伸行氏に、浜松市のアイデンティティとともに歩む同社の取り組みと、全国から「音楽への熱意」を持った人材が集まる地方拠点の魅力について聞きました(聞き手:みらいワークス 執行役員 高橋寛)。

楽器メーカーと音楽の都がともに描く音楽文化の発展

高橋:静岡県浜松市に拠点を構えるヤマハが地域社会とどう関わり、盛り上げているのか大変興味があります。人事・総務部としてどのようなミッションを持って地域活動に取り組んでいるのか教えてください。

杉山:ヤマハの人事・総務部は、「社会貢献」や「地域に対する寄与」というミッションのもとで活動しています。ヤマハグループ全体の地域貢献活動をサポートし、全従業員が社会の一員としての責任を自覚し、良き企業市民として社会の発展に貢献できるよう支援する役割を担っています。

地域や社会に寄与する取り組みの中でも、ヤマハならではと言える特徴的な取り組みの1つが音楽普及活動です。楽器や音響機器を製造する当社にとって「音楽」は、単なる事業の枠を超え、人と人をつなぎ社会をより良くするためのツールと位置付けています。人々の豊かな暮らしを実現する手段として音楽に接するとともに、社会課題の解決や地域社会の発展をもたらす役割も音楽が果たしてくれると考えています。

そもそもヤマハがある浜松市は、古くから「音楽のまちづくり」を推進しています。ユネスコの「創造都市ネットワーク」という持続可能な都市開発を目指すプログラムの音楽分野で、2014年にはアジアで初めて認定された都市となります。当社はこうした浜松市の方針に強く賛同し、ハード面だけでなくソフト面でもかなり密接に連携しながら、浜松市の音楽文化の発展を目指してさまざまな取り組みを進めています。

ヤマハの音楽普及活動を熱く語ってくれたヤマハ 人事・総務部 副部長 杉山俊道氏(写真右)と、ヤマハコーポレートサービス 総務事業部 企画推進グループ マネジャー 佐藤伸行氏

高橋:企業の社会的責任として地域に貢献するだけではなく、浜松市のアイデンティティである「音楽」を通じて活動しているのが特徴的ですね。

杉山:浜松市が実施するイベントなどをサポートするだけでなく、普段から日常的に地域とコミュニケーションを図ることも大切にしています。浜松市のデジタルスマートシティ構想のもとで、産業やイノベーション創出の推進、官民連携による脱炭素化を目指す取り組みにも深く関わっています。さらに、会社周辺の自治会と定期的に情報交換する機会を設け、地元の清掃活動に参加するなどして地域との交流も深めています。浜松市に拠点を構える企業として地域にどう貢献できるのかを考えながら、新たな取り組みを日々模索しています。

なお、ヤマハ本社には「イノベーションロード」という、ヤマハのイノベーションへの挑戦の歴史を振り返ることができるミュージアムを併設しています。ここは当社の顧客や取引先が訪れるだけでなく、一般公開して地元の小学校の社会科見学などにも広く利用してもらっています。

遠州鉄道「八幡駅」を出て徒歩約2分の場所にあるヤマハ本社

30年超の歴史、「ハママツ・ジャズ・ウィーク」が浜松にもたらす価値

高橋:音楽を通じて浜松市にどう貢献しているのか。具体的な取り組みを教えてください。

佐藤:数ある取り組みの中でも、代表的なものの1つが「ハママツ・ジャズ・ウィーク」という音楽イベントの開催です。1992年からスタートし、2026年には34回目を迎える歴史あるイベントで、私自身はプロデューサーとして10年以上イベント運営全体を統括しています。

「ハママツ・ジャズ・ウィーク」を開催する目的は大きく3つです。1つは、地域の活性化です。イベント開催を機に多くの人に浜松市を訪れていただき、経済や観光などの面で波及効果を生み出すことを目指します。2つ目が、次世代育成です。音楽に身近に触れ合う機会を提供することで、子供のころから音楽の楽しさや魅力を知ってもらえる環境づくりに取り組んでいます。3つ目が、音楽の普及とすそ野の拡大です。音楽の魅力を浜松市から全国に発信し、誰でも音楽を身近に感じ、体験できる世界を作り出したいと考えています。

毎年秋に開催される、日本を代表する一大ジャズフェスティバル「ハママツ・ジャズ・ウィーク」

高橋:地域活性化だけでなく、子供の教育にも目を向けていることに感心します。イベントの企画や運営は、御社の方々が中心になって進めているのでしょうか。

佐藤:浜松市や静岡新聞社、静岡放送などが主催しています。実質的な企画や運営は主にヤマハグループで構成する事務局が担当しています。常時関わるメンバーは5名ほどですが、単発のプロジェクトを含めると10名ほどの体制になります。さらにイベント期間中はヤマハグループの従業員もボランティアとして運営に関わっています。前回の開催時には、延べ14名の従業員が会場設営やお客様の案内などを実施し、イベントを裏からサポートしました。

高橋:「ハママツ・ジャズ・ウィーク」を成功させたいという御社の強い思いが伝わってきますね。イベント開催中は浜松市だけでなく県外からも多くの人が集まるのでしょうか。

佐藤:はい。イベントは9日間にわたって開催され、毎年約2万人以上の方に来場いただいています。来場者の内訳はおおよそ、6割が浜松市内、3割が名古屋などの近隣都市、残りの1割が東京都や北海道などの遠方となっています。オープンスペースで実施するストリートジャズフェスティバルでは、出演を希望するミュージシャンが今では県外からも多く集まるようになりました。浜松市や静岡県といったエリアにとどまらず、全国に「ハママツ・ジャズ・ウィーク」の認知が広がっているのを実感します。

「ハママツ・ジャズ・ウィーク」期間中は、学生バンドの祭典である「スチューデント ジャズ フェスティバル」も開催

高橋:数万人規模の集客となると、「ハママツ・ジャズ・ウィーク」はまさに「関係人口」の大きな創出拠点となりますね。イベントをきっかけに浜松市を訪れ、この街の魅力を知る人が確実に増えているのを感じます。今後はどのような展開を考えていますか。

佐藤:ジャズというと「難しくて入りにくい」というイメージを持つ人が多くいます。そこで、ジャズ以外の音楽フェスやイベントともつながり、ジャズを気軽に楽しんでもらえるような間口づくりを進められればと考えています。地域やジャンルという垣根を超え、「音楽」を起点に人が集まり、にぎわう機会を創出し続けられればうれしいですね。

町の日常に音楽が溶け込む、ヤマハのストリートピアノプロジェクトと従業員による演奏会

高橋:「ハママツ・ジャズ・ウィーク」だけではなく、ヤマハといえば「LovePiano」というストリートピアノプロジェクトも全国的に話題ですよね。

杉山:「LovePiano」は2017年からスタートした活動で、カラフルにペイントされたピアノを駅や空港などのオープンスペースに設置し、誰でも自由に弾けるピアノとして親しんでもらうプロジェクトです。これまでは人前で楽器を弾くのは恥ずかしいという風潮もありましたが、今ではSNSで自身の演奏を披露して発信することが当たり前になっていますよね。こうした方々を応援し、自己表現の場を提供したいというのが「LovePiano」に取り組み出した経緯です。

これまで全国170ヵ所以上にピアノを設置し、2022年からはアジアをはじめとする海外にも取り組みを広げています。うれしいことに行政や鉄道会社から「設置したい」という依頼を数多く受けており、場のにぎわいや温かい空間の創出を、ピアノを通じてお手伝いしています。

高橋:小さい子供からお年寄りまで、幅広い世代の方々がピアノを弾いているのも見かけます。ちなみに楽器メーカーとして、ヤマハの従業員の中にも演奏が得意な方は多いのではないですか。

杉山:はい。実はヤマハの従業員で構成する「ヤマハ吹奏楽団」というアマチュアバンドが当社にはあります。自分たちで設計、製造した楽器を使って演奏しているのが特徴で、つい先日も浜松駅前の広場でコンサートを開催し、70名編成で生演奏を披露しました。なお、浜松では週末になると、どこからともなく音楽が流れたり演奏が聞こえたりし、音楽が日常に溶け込んでいることを強く感じます。「浜松は音楽の都」と多くの人に知ってもらうため、ヤマハとしてこれからも微力ながら活動の一翼を担えればうれしいですね。

ヤマハの従業員で構成する「ヤマハ吹奏楽団」の演奏会は、毎回多くの人で賑わう

世界に広がる音楽の輪。社会貢献活動に込めたヤマハの思い

高橋:ヤマハの音楽を起点にした活動は浜松にとどまらないと聞きました。現在はグローバルな社会貢献活動にも注力しているとのこと。具体的な取り組みを教えてください。

杉山:当社は「世界中の人々のこころ豊かな暮らし」をビジョンに掲げ、このビジョン実現に向け、海外の各拠点でさまざまな社会貢献活動を実施しています。例えば、新興国を中心に展開しているのが「スクールプロジェクト」です。音楽の授業をする環境が整っていない国に向けて、現地の教育省などと協力しながら音楽の授業実施をサポートしています。この10年ほどでアジアや中南米、中東など10ヵ国、約500万人の子供に、楽器や教育メソッドを提供し、音楽に触れる機会を創出してきました。

高橋:それはすごい規模ですね。教育だけでなく、地域の社会課題解決にもつながっているのでしょうか。

杉山:はい。中南米地域では犯罪や貧困が深刻な社会課題となっていますが、こうした課題解決に寄与するプロジェクトを展開しています。それが「AMIGO Project」です。子供が非行に走らず健全な精神を育めるよう、青少年育成を目的としたオーケストラバンドの活動を支援しています。楽器のメンテナンス知識や修理技術を教えるだけでなく、こうした知識やノウハウを糧に職業することまで見据えて取り組んでいます。例えばコロンビアでは、プロのサッカーの試合前に当社が提供した管楽器「Venova」を使い、子供たち演奏を披露したこともあります。「音楽」は全世界で社会貢献や地域貢献に寄与するツールであると実感しています。「音楽」ならではの特性や強みを活かし、さまざまな形で社会貢献を実現できればと思います。

音楽や楽器という明確な魅力が県外から多くの人を引き寄せる

高橋:ヤマハのビジョンに共感し、「私もヤマハで働いてみたい」と思う人も多いかと思います。そこで、地方で働くことの魅力についてお聞きします。本社が浜松市にある御社では、採用時に県外から応募してくる人はどのくらいいるのでしょうか。

杉山:当社では開発や企画に関する機能は、本社のある浜松に集約しています。そのため、新卒はもとより中途採用でも県外から浜松に来る人は非常に多くいます。私は新卒として入社しましたが、同期のうち地元出身者は1~2割程度にとどまります。中途採用も含め、県外から来る人が圧倒的に多い印象です。

高橋:8〜9割が県外出身とは驚きです、縁もゆかりもない浜松という地を選ぶ決め手はどこにあると考えますか。

杉山:「音楽が好き」や「楽器に関わる仕事をしたい」という明確な志望動機を持っている方が圧倒的ですね。当社の採用面接に来る方の中に「浜松勤務は嫌だ」と言う人はほとんどいません。むしろ「大好きな音楽に関わる仕事がしたいから浜松に行く」という熱量を持った人が集まっていますね。

高橋:「好きなことを仕事にする」という強い思いが、地方拠点という地理的条件を上回っているのですね。佐藤さんも県外から浜松に来られたとのことですが、実際に浜松で生活してみていかがですか。

佐藤:私は北海道出身で、就職で初めて浜松に来ました。浜松は東京と大阪の中間に位置し、政令指定都市として都市機能が充実する一方で、少し足を伸ばせば豊かな自然もあります。仕事とプライベートのバランスが取りやすく、生活の基盤を築くにはまったく不自由のない、素晴らしい環境だと思います。

高橋:地方創生の観点から見ると、浜松市をはじめ多くの地方都市は人口流出という課題を抱えています。しかし、御社のように「音楽」という確固たる軸を持ち、地域を巻き込んで真剣に街を盛り上げようとする企業が存在することで、「音楽の街だから住みたい、関わりたい」と思う人が全国から集まってくるのだと確信しました。本日は、地方に拠点を構える企業の底力と、地域と共創する素晴らしい話をありがとうございました。

杉山・佐藤:こちらこそ、ありがとうございました。

この記事を作成した人

地方創生ジャーナル編集部

地方創生ジャーナル編集部

地方創生ジャーナルは株式会社みらいワークスが運営する、「地方で働く」を考えるビジネスパーソンのためのニュースサイトです。