インタビュー

北海道が抱える課題に挑むサツドラHDの共創戦略、道内企業と道外企業の「つなぐ」を誘発するインキュベーション施設が課題解決の鍵に

この人にインタビュー

満留真章

満留真章さん  / 株式会社サッポロドラッグストアー サツドラ事業開発部 地域共創戦略エキスパート

「北海道から日本の未来をつくる」。こんなビジョンを掲げ、地域の社会課題解決に挑み続ける企業がサツドラホールディングス株式会社(以下、「サツドラHD」)です。同社の子会社である株式会社サッポロドラッグストアー(以下、「サツドラ」)は北海道を中心にドラッグストアを展開するほか、北海道札幌市と東京都品川区にあるインキュベーション施設「EZOHUB(エゾハブ)」を運営。サツドラHDでは「地域をつなぎ、日本を未来へ。」を合言葉に、北海道に拠点を構える企業と全国を結ぶ取り組みに乗り出しています。

北海道の小売事業者が全国に目を向ける背景とは。北海道が抱える社会課題に対し、解決策としてどんな新たな価値を生み出そうとしているのか。さらには、地方に拠点を構えるからこその強みをどう捉えているのか。

今回は、サツドラ事業開発部 地域共創戦略エキスパートの満留真章氏に、EZOHUB誕生の背景や狙い、会社として「地域」とどう向き合っているのかを聞きました。(聞き手:みらいワークス 執行役員 高橋寛)

深刻な人口減少問題に直面する危機感が北海道と日本をつなぐ取り組みの契機に

高橋:サツドラを含むサツドラグループの事業や、グループとして目指す取り組みを教えてください。

満留:「地域をつなぎ、日本を未来へ。」というコンセプトを掲げるサツドラグループの中で、私が所属するEZOHUB事業は「北海道から日本の未来をつくる」というミッションを掲げています。このミッションを実現させるための具体的な取り組みとして、北海道の関係人口を増やすこと、北海道内で流通するお金や情報の循環を活性化すること、持続可能な産業活動を地域に残していくことに取り組んでいます。その背景にあるのは、北海道が直面している深刻な人口減少問題です。北海道は都道府県魅力度ランキングで17年連続トップである一方、179ある市町村のうち、およそ半数の89市町村がすでに人口5000人未満となっています。こうした地域課題の解決に少しでも貢献したいという思いから、当社もその一翼を担うべく、さまざまな取り組みを進めています。

高橋:179市町村のうち半数が5000人未満ですか。小売業にとって非常にシビアな現実ですね。

満留:はい。ドラッグストアの一般的な出店商圏は5000人から8000人と言われています。つまり、これまでと同じビジネスを続ける限り、北海道の半分の市町村には物理的に出店できないことになります。昨今のドラッグストア業界では大型の企業再編が相次いでいますが、当社の場合、規模などを理由に同じ戦略は取れません。そこで当グループは、「徹底的に北海道にドミナントする」という戦略を打ち出しています。

人口減少により商圏が縮まれば、影響を受けるのはドラッグストアだけではありません。病院や学習塾、交通機関など、地域社会を支えるさまざまなサービスの維持が難しくなります。だからこそサツドラグループは、北海道が抱えるこうした地域課題に向き合い、既存事業の枠を超えながら持続可能な地域づくりにつながる新たな取り組みを模索しています。

「北海道とつながる」を実現するインキュベーション施設立ち上げの思いと効果

高橋:その取り組みの1つとして立ち上がったのが、インキュベーション施設である「EZOHUB」ですね。資料を拝見すると、「北海道とつながる、民間企業主導型都道府県インキュベーション」とありますが、どのような狙いや機能があるのでしょうか。

満留:EZOHUBはイベントスペースやコワーキングスペースを備えた施設で、当グループでは「リージョナルインキュベーションプラットフォーム」と位置づけています。2020年に札幌本社2階に「EZOHUB SAPPORO」を開設し、その後、2024年5月には東京・天王洲アイルに「EZOHUB TOKYO」をオープンしました。

写真1:東京モノレール「天王洲アイル駅」から徒歩4分の場所にある「EZOHUB TOKYO」

これらEZOHUBの最大の役割は、北海道と日本をつなぐ「出島」として機能することです。具体的には、北海道の価値や魅力、取り組みを道外へ発信するアウトバウンド(From北海道)と、道外の人材・企業・情報を北海道へ呼び込むインバウンド(To北海道)の両方を担っています。これにより、北海道内にとどまらない新たな共創やネットワーク創出を支援し、地域の可能性を広げる場づくりを推進しています。

高橋:「出島」としてのアウトバウンド機能とインバウンド機能、もう少し詳しく教えていただけますか。

満留:アウトバウンド機能は、道内の企業や自治体がEZOHUBをプロモーションや出張時の拠点として活用いただくことを想定しています。東京・天王洲アイルにある「EZOHUB TOKYO」ではオープン後最初の1年間で72件のイベントを開催し、延べ2300人以上の方に来場いただきました。イベントの大半が北海道に関連する内容となっており、北海道と東京、ひいては全国をつなぐ役割を着実に果たしていると感じています。

一方、インバウンド機能は、道外の情報や人材、企業などとのアライアンスを北海道に呼び込む役割を担っています。例えば、小売事業者向けのサービスや新規事業の創出を目指す道外企業と道内企業の共創、さらには食や農業、観光といった北海道の基幹産業関連の事業化に向けたプロジェクト推進などを支援し、すでに多様な連携が生まれています。

高橋:北海道のハブとなる「EZOHUB TOKYO」が都内にあれば、道外企業は北海道の現状や情報を集約しやすくなりますね。北海道に拠点を置く企業とのマッチングも効率よく進められるようになります。

満留:その通りです。北海道の抱える課題を道内のリソースだけで解決するのは決して容易ではありません。弊社を含む道内の企業や自治体が道外でアライアンス先を探す場合、これまではそれぞれが東京へ足を運び、名刺交換や情報交換などを通じて新たな事業機会や課題解決の糸口を模索してきました。しかしこうした個々の取り組みだけでは、出会いや連携の機会にも限界があるだけでなく、動きが点で終わってしまい、継続難易度も高いと考えます。そこで、当グループは北海道内外の企業や自治体、人材がつながる場を創出することで、共創の可能性をより大きく広げられるのではと考え、「EZOHUB TOKYO」を開設しました。目指したのは、「北海道のことなら、先ずはここへ行けば良い」と思っていただける拠点を東京都内に作ることでした。北海道と全国をつなぐハブとして、多様な人や情報、アイデアが交わる場を育てることで「北海道と日本をつなぐ」という当社の思いを形にしていきたいと考えています。

なお、「EZOHUB TOKYO」と「EZOHUB SAPPORO」ともにスタッフが常駐しており、企業や自治体の皆さまがスムーズに共創できるよう支援しています。例えば、会員企業や自治体が「EZOHUB」でイベントを開催する際には、企画段階から当日の運営まで常駐スタッフが伴走しながらサポートします。企業が共創先を探したり、イベントを企画・運営したりするには多くの時間と労力が必要となります。「EZOHUB」は、そうした負担を軽減しながら人や企業、地域をつなぎ、新たな連携や価値創出を生み出せる点に大きな価値があると考えています。

写真2:「EZOHUB TOKYO」は約50席のワークスペースを備えるほか、売店や飲食スペースも用意

高橋:「EZOHUB」という施設を運営するだけでなく、都内在住者を対象としたコミュニティ「エゾクラス」の運営や、リテール特化のコミュニティ「あつまれ りているの森」の組成など、コミュニティづくりにも力を入れられていますね。

満留:はい。「エゾクラス」は、地方での就職や地方創生に関心を持つ首都圏の学生や社会人などが集まるコミュニティです。道内企業と首都圏の就活生をつなぐマッチングイベントも開催しており、参加した方々からは非常に高い評価をいただいています。「あつまれ りているの森」では、業種や業態垣根を超えてリテール業界の知見や課題意識を共有し、業界全体の活性化につながることを目的にしています。私たちは単に施設という「箱」を提供するだけでなく、その場を通じて北海道とどのようなつながりを生み出せるかまで見据えながら、多様な共創や交流を支援する取り組みを積極的に展開しています。

写真3:サツドラやEZOHUBの使命を語ってくれたサッポロドラッグストアー サツドラ事業開発部 地域共創戦略エキスパート 満留真章氏

独自のポイントサービス「EZOCA」を通じて地域貢献を実現

高橋:基幹事業であるドラッグストアでの取り組みについてお聞きします。道内の人口減少が加速する中、ドラッグストアという拠点を軸に、利用者向けにどんな施策やサービスを展開しているのかを教えてください。

満留:北海道のさまざまな企業や店舗で利用できる「EZOCA(エゾカ)」という地域共通ポイントサービスを展開しています。購入額に応じてポイントが付与される仕組み自体は一般的ですが、「EZOCA」では特定の自治体や団体とコラボレーションした「還元型EZOCA」を発行しているのが特徴です。例えば、函館方面にある江差町と連携した「江差EZOCA」では、買い物金額の一部が町に還元される仕組みになっています。還元額は年間100万円規模に上り、江差町ではこれを原資に町づくりや地域の活性化事業を展開しています。

その他にも、プロサッカークラブの「北海道コンサドーレ札幌」やプロバスケットボールチーム「レバンガ北海道」を応援するEZOCAも展開しています。「北海道コンサドーレ札幌」では利用金額の一部をクラブに還元しており、昨年は年間400万円ほど還元するまでになりました。還元された資金は、チームの強化運営費などに活用され、地域スポーツの振興や次世代育成にもつながっています。

高橋:ドラッグストアの利用者は、日常の買い物を通して地元に貢献しているわけですね。

満留:はい。当社のドラッグストア「サツドラ」で取り扱っている商品の多くは他のドラッグストアなどでも買うことができます。しかし、「どうせ買うなら地元や応援しているチームに還元されるサツドラで買おう」と思っている方々が多数います。こうした地元への思いを地域還元という形で可視化・循環できていることが他店との差異化につながっていると考えます。実際に「江差EZOCA」の人口カバー率は、江差町の人口の100%を超えています。町外に引っ越した江差町出身者も江差町を応援したいという想い継続して利用いただくなど、地域内外を問わず多くの方に支持いただいています。

高橋:ポイントカードが乱立する中、地方企業が自前でこうしたプラットフォームを構築できた理由をどう考えますか。

満留:1972年の創業以来、50年以上にわたって北海道に根差し、地域と向き合いながら事業を続けてきたことで培われた「信頼の蓄積」が、当社にとって何より大きな強みだと考えています。過去には、大手ポイントサービスと連携に関する話を受けたこともありましたが、当社では地域との接点から得られる顧客データこそが重要な資産であると考え、独自の道を選択しました。現在では約239万人の会員データを保有し、これがさまざまな共創や新たな取り組みを支える基盤となっています。北海道という地域特性を背景とした顧客行動や購買傾向を把握できるデータとして、道外企業からも多くの関心や引き合いをいただいています。

PoCを成功に導く支援体制が道内企業の活性化にも寄与

高橋:「サツドラ」の店舗は、企業の実証実験(PoC)の場としての役割も担っていると聞きました。企業のPoCを支援する背景や狙いがあれば教えてください。

満留:多くの消費者が来店する小売店舗でPoCを実施したいと考える企業は少なくありません。しかし、実際には企業のPoCを支援する小売事業者の多くが、店舗という場を提供するだけにとどまっています。その結果、検証成果が曖昧になりがちで、結果として社会実装や収益化まで至るケースは高くないとも言われています。そこで当社では「成功にコミットする」ことを重視し、専門の支援チームが伴走しながらPoCを推進して成果の見える化を全力で支援しています。当社ではPoCの成功に必要なのは単なる「場」ではなく、「仕組み」と「伴走支援」であると考えています。検証実施にとどまらず、本格導入や事業化・収益化までを見据え、一緒に取り組む体制を整えています。

当社がさまざまな企業のPoCを支援すれば、道内企業のイノベーション創出や新たなビジネスチャンス拡大にもつながると考えています。単にPoC実績数を積み重ねるのではなく、成功にコミットする姿勢を貫くことが、「北海道から日本の未来をつくる」という弊社のミッションの実現につながると考えています。

高橋:具体的にどのように企業を成功へと導くのでしょうか。店舗でPoCに取り組みたい企業が「サツドラ」を選ぶ理由があれば教えてください。

満留:当社では、さまざまなPoCを支えるための支援体制を整えています。具体的には、BPR(業務プロセス改革)担当や事業開発担当、データ分析担当など、それぞれの領域の専門人材で構成する「PoC成功支援チーム」を組織し、企業の取り組みを現場のプロがサポートしています。例えば、開発中のソリューションをリテールの現場業務にどのように適合させるか、あるいは顧客ニーズをどのような方法や施策で深掘りしていくかなどを、「PoC成功支援チーム」が企業とともに伴走検討しながら、実装可能性や成果創出につなげています。さらに、営業中の店舗からリアルタイムで取得する購買データやヘルスケアデータを収集・分析できるのも弊社の強みです。こうした実際の顧客行動に基づく「生のデータ」をPoCに活かせるのも、多くの企業が「サツドラ」を選ぶ理由の1つだと考えています。

高橋:データと現場の両面から企業のPoCや事業化を強力にサポートするわけですね。「EZOHUB」でも企業のPoCに協力することはあるのでしょうか。

満留:はい。「EZOHUB TOKYO」では、食品や日用品を実際に販売する約19坪のデモ店舗を併設し、小規模かつ短期間でPoCを実施できる環境を整えています。デモ店舗は柔軟性とスピード感を重視した設計となっており、消費者の行動や購買動向を比較的容易に、かつ短期間で検証できるようになっています。さらに「EZOHUB TOKYO」でテストした後、豊富な来店客数と約3万SKUの商品を取り扱う北海道内の店舗で大規模なPoCを実施することも可能です。

高橋:東京でスモールスタートし、北海道でスケールさせる。非常に理にかなったエコシステムですね。実際にどのような成果が生まれているのでしょうか。

満留:例えば、楽天グループとAIカメラ開発企業のAWLはEZOHUB SAPPOROの実証実験フィールドを活用し、2025年6月には店舗向けの万引き未然防止AIサイネージソリューション「楽天安心サイネージ」の外販を開始しました。同サービスは既に多くの店舗で導入が進んでいます。このように、EZOHUBは小売店向けの製品やサービスを開発するためのPoCの場として使われるだけでなく、自社商品の販路拡大や市場検証の用途でも使われています。実際の売場や消費者接点を活かしながら、検証から事業化まで支援できる環境が整っていることがEZOHUBの特徴の1つです。

「住む場所」か「楽しい仕事」かの優先順位づけが地方移住を後押し

高橋:満留さんはずっと北海道にお住まいなのでしょうか。これまでの経歴を教えてください。

満留:もともと神奈川県川崎市の出身で、リクルートの制作部門などで10年ほど働いていました。首都圏で仕事をしてきましたが、転勤を機に名古屋や札幌などで暮らした経験から「地方で暮らす」という選択肢を強く意識するようになりました。実際に地方で生活してみると、居住環境の良さや仕事と遊びの距離感、毎日見る景色や食べ物など、首都圏での暮らしの満足度とは大きな違いがあることを実感しました。こうした経験を通じて、「どこに住んでも食っていける人になりたい」と考えるようになりました。

札幌で勤務した経験があったことに加え、家族からも前向きな後押しもあり、転職を機に思い切って北海道へ移住し、現在の業務に携わっています。

高橋:満留さんのように地方への移住や転職に踏み切れない人は多いと思います。こうした方に向けてアドバイスをいただけますか。

満留:「優先順位を決めること」を強くおすすめします。私自身、転職を考えた際には「どこに住むか」と「どんな仕事をするか」という2つの軸の間で非常に迷いました。両方を同時に追い求めようとすると、どちらも中途半端になりかねません。そこで私は、「自分が楽しいと思える仕事をすること」を最優先に考えるようにしました。居住環境を変えたいのか、やりたい仕事を追求したいのか。自分の中の優先順位が定まると、後のことは自然と整理され、自分らしい道が見えてくるのではないでしょうか。

「三方よし」の体制構築には課題を整理できる人材がより重要に

高橋:サッポロドラッグストアーの取り組みは、北海道という土壌、230万人以上のEZOCA会員データ、EZOHUBの伴走機能が掛け合わさることで、オープンイノベーションの無限の可能性が広がっていると感じました。今後の展望があれば、ぜひお聞かせください。

満留:今後の大きな課題は、EZOHUBを通じて生まれたつながりを、いかに具体的な「プロジェクト」として発展させ、継続的な事業として伴走していくかだと考えています。東京の企業を北海道の自治体や事業者に紹介するだけでは、結果としてお金やノウハウが道外に流出してしまう可能性もあります。だからこそ紹介した人とされた人、さらに地域が潤う「三方よし」をどのように構築していくかが重要だと考えています。その実現には、地域側に立ちながら「課題を整理する役割」を担う人材が不可欠です。人口減少や過疎化といった大きなテーマも、そのままでは解決策につながりにくいため、「自分たちでできること」と「外部の力が必要なこと」を切り分けながら、課題を具体化していく必要があります。課題の解像度が高まれば、東京の企業や専門人材とのマッチング精度やスピードも大きく向上すると考えています。私たちは、「EZOHUB」がその結節点となると考えます。多様な人材や企業、地域をつなぐことで、人材不足などの北海道が抱える課題解決に取り組み、北海道からサステナブルな分散型社会の実現につなげることを目指します。

高橋:地方創生において、まさに「上流の課題整理」と、実証実験を通じた「成功への伴走」が、今後ますます重要になってきますね。本日は地方拠点の強みから、企業との熱い共創のリアルまで、大変有意義な時間をありがとうございました。

満留:こちらこそ、ありがとうございました。

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地方創生ジャーナル編集部

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