インタビュー

魅力発掘と産業創出で膨らむ竹富島の明るい未来、星野リゾートが描く離島文化の復興と地域共存の姿とは

この人にインタビュー

小山隼

小山隼さん  / 星野リゾート サービスチームスタッフ

市川和美

市川和美さん  / 星野リゾート サービスチームスタッフ

地方創生や関係人口の創出が注目される中、地域に根付いた事業を展開する企業は何を強みに打ち出すのか。今回は、沖縄県の竹富島にある宿泊施設「星のや竹富島」の取り組みにフォーカス。周囲わずか9kmの離島で、「星のや竹富島」は地域との関わりをどう築いているのでしょうか。運営する星野リゾートは、地方ならではの魅力を事業にどう結びつけようと考えているのでしょうか。

「星のや竹富島」で働く星野リゾート サービスチームスタッフの小山隼人氏と市川和美氏に、「星のや竹富島」の地域連携の取り組みと2人が竹富島で働くに至った経緯を聞きました。(聞き手:みらいワークス 執行役員 高橋寛)

星野リゾートが竹富島の文化を守る思い、果たすべき使命とは

高橋:「星のや竹富島」は2012年に開業されたとのこと。竹富島で開業するに至った経緯を教えてください。

小山:竹富島は、琉球赤瓦の屋根や珊瑚の石垣、白砂の道といった沖縄の原風景が今も残り、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。しかし、1972年の本土返還の際、島の土地の一部が外部資本に買収されてしまいました。いつ乱開発され、高層ホテルが建ってしまうか分からないという危機に直面していたのです。そんな中、土地問題の解決に奮闘していた島の方が、星野リゾートの代表と偶然出会いました。対話を重ねる中で「この企業なら島を任せられる」と信頼を寄せていただいたことが、「星のや竹富島」を開業するに至った出発点です。

高橋:島を守りたいという切実な思いから始まったのですね。とはいえ、最初は「よそ者」への警戒心や不安もあったのではないでしょうか。

小山:おっしゃる通り、当初は島の方々も不安だったと思います。そこで私たちは、「島の豊かな街並みや祭事の文化を維持するには、適切な人口が必要である。そのためには、文化や環境にリスペクトを持ち、島の維持活動にもつながる適切な産業が必要だ」という一貫したメッセージを伝え続けました。昼夜を問わず、さまざまな場所で多くの方々と対話を重ねることで、少しずつ信頼関係を築いていきました。

写真1:沖縄の伝統的な「琉球赤瓦」を屋根に使用する「星のや竹富島」

高橋:そこまでして星野リゾートが島の文化を守り、適切な産業の創出に注力する理由、その根底にはどんな思いがあるのでしょうか。

小山:一言で言えば、「産業を通じて島を存続させること」が、リゾート運営会社としての使命だと考えているからです。竹富島には年に約20もの伝統的な祭事がありますが、これらを維持するには若い担い手が不可欠です。しかし島には中学校までしかなく、若者は高校進学とともに一度島を出てしまいます。彼らが「島に戻ってきたい」と思える魅力的な働く場所、魅力的な産業がなければ、島の過疎化は止まりません。だからこそ私たちは、単なる文化の保護にとどまらず、それを「経済的価値を生む持続可能な産業」へと昇華させる必要があると考えています。

失われゆく農業を次世代へ継承する「畑プロジェクト」

高橋:島の文化を守り産業を創出するため、「星のや竹富島」では具体的にどういった活動をしているのかを教えてください。

小山:竹富島で行われる祭事の多くが、五穀豊穣を祈願するものです。つまり、島の伝統文化は畑と密接に結びついているのです。しかし、観光業へのシフトに伴って栽培に携わる人が激減し、私が赴任した当時、島の農業を支えていたのは、当時96歳の方一人という絶滅寸前の状態でした。

「このままでは島特有の畑文化が失われてしまう」という強い危機感から、私がその人に弟子入りし、2017年に「星の竹富島」の施設内に畑を作る取り組みを開始しました。これが「畑プロジェクト」です。

高橋:弟子入りして農業を守るとは、思い切った決断ですね。畑プロジェクトの具体的な取り組みや、その過程で苦労したことがあれば教えてください。

小山:畑プロジェクトでもっとも注力したのが、「種子取祭(タナドゥイ)」という島最大の祭事に欠かせない伝統作物「粟(あわ)」の復興です。当時は島内での生産が途絶え、他島のものに頼らざるを得ない状況でした。指導のもと栽培を始めたのですが、最初は苦労の連続でしたね。珊瑚礁が隆起してできた竹富島は表土が非常に薄いんです。鍬(くわ)を下ろすたびに琉球石灰岩に当たって「カキーン!」と音が響き、まるで炭鉱夫になったような過酷な土作りから始まりました。

高橋:作物を育てる過程も苦労の連続だったのではないでしょうか。

小山:はい。失敗ばかりでしたね。最初はイネ科の粟と雑草の見分けがつかず、4ヵ月間も必死に雑草を育ててしまったことがありました。さらに沖縄特有の激しい台風や、実を狙って大量発生するスズメとの戦いもありましたね。それでも諦めずに試行錯誤を続け、3度目の挑戦でようやく実を結び、2018年に初めて島へ粟を奉納することができたのです。今も毎年奉納を続け、「ホンジャー」という伝統行事などでも私たちの粟が使われています。

高橋:そのほかにはどういった作物を栽培しているのでしょうか。

小山:島から姿を消していた在来大豆「クモーマミ」の復興にも取り組んでいます。保存されていた貴重な種子を譲り受け、島の子供と収穫して豆腐を作り、島の方々に振る舞いました。この取り組みを通じ、食が持つ記憶を呼び起こす力をものすごく実感しましたね。今後は島醤油作りにも挑戦したいと考えています。

もう1つが、かつて医師のいなかった島で健康を支えてきたハーブや野菜「命草(ぬちぐさ)」の栽培です。「星のや竹富島」の施設内で約40種類を育て、食事やハーブティとして提供しています。さらに、この命草や島胡椒などを使ったオリジナル蒸留酒「KUNUSHINA」も開発しました。大変好評で、現在はダイニングのディナーコースなどで提供しています。

高橋:絶滅寸前だった農業を復興させる取り組み、「星のや竹富島」にとって有意義な活動ですね。

小山:単に畑を維持するだけでなく、収穫した作物を「星のや竹富島」の料理としてゲストに提供することで、経済的な価値を生み出すことにも注力しています。島の文化を守りながら、持続可能な産業へと発展させていくこと。これこそが、星野リゾートが地域と共存する形だと考えています。

島民との交流を通じて若者の「島へ帰りたい」という思いを育む

高橋:「星のや竹富島」では島の皆さんとどう交流しているのでしょうか。地域とのつながりを深める活動などあれば教えてください。

市川:島の方々への感謝の気持ちを伝えるため、「星のや竹富島」が開業した6月に「集落の日」というイベントを毎年開催しています。開業13周年を迎えた2025年には、初の試みとして館内を貸し切りにし、約110名の島民の皆様を招待しました。当日は島の伝統的な食材を使った特別メニューでおもてなししたり、スタッフが島の方々と一緒に客室や畑を巡る案内ツアーを実施したりしました。

写真2:島の方々を「星のや竹富島」に招いてランチで交流

さらに、島の未来を担う子供たちと、「ビルロー」という島の伝統的なお菓子作りに挑戦したり、三線を習っている「星のや竹富島」のスタッフと島の方々が一緒に八重山民謡を演奏する三線ライブを開催したりしました。こうした食や文化、音楽を通じた交流によって、竹富島の基本精神である「ウツグミ(一致協力)」の精神を改めて島の方々と深く分かち合うことができたと感じています。

写真3:三線ライブの様子

高橋:島を出ていく若者がいずれ竹富島に帰りたいと思うためには、どういった活動が必要だと考えますか。

市川:「畑プロジェクト」や「集落の日」で子供と触れあう機会を設けているのは、いずれ島の外に出ていく若者の心に、「竹富島へ帰る」という思いを育みたいと考えているためです。さらに、成人式などで島に帰省した若者と交流する際には、「プロジェクトで作った作物でこんなお酒ができたよ」と伝えたり、「またいつか一緒にやろう」と声をかけたりし、継続的な接点を持つことも心掛けています。

大切なのは、同世代の仲間と「どうすれば島がもっと面白くなるか」を語り合い、魅力的な産業や持続可能な働く場所を共に創出していくことだと思います。そのためには、若い人の考え方や姿勢を学ぶとともに、接点を通じて竹富島の未来について話す機会を増やすべきだと考えます。今後も島の方々と一緒にさまざまな行事やイベントを企画し、こうした交流の場を通じて竹富島の魅力や面白さを伝えていければと思います。

沖縄への憧れが移住を促す契機に

高橋:「星のや竹富島」の取り組みの一方で、小山さんと市川さんの竹富島での働き方や暮らしぶりも気になります。そもそもお二人は竹富島出身ではないそうですね。なぜ「星のや竹富島」で働くことになったのでしょうか。小山さんのこれまでの経緯を教えてください。

小山:私は東京都葛飾区出身で、新卒で星野リゾートに入社しました。入社直後に「星のや竹富島」の配属となり、そのまま竹富島に移住して10年ほど経ちます。

親戚が沖縄の久米島に住んでいて、小学校の頃から夏休みには家族旅行で久米島に長期滞在していました。そのため、沖縄にはもともと馴染みがあり、憧れも抱いていました。そんな中、就職活動を始める前にバックパッカーとして世界中を旅していたとき、どうしても旅人という「お客さん」の立場になってしまうことに違和感を抱くようになったのです。そこに住んで初めて分かる暮らしを深く理解したいと思うようになったのです。さらに、旅先で出会った方々のおもてなしが私の人生を豊かにしてくれたように、今度は自分が提供する側に回りたいと思うようにもなりました。こうした経験と思いがきっかけとなり、星野リゾートへの入社を決めました。

高橋:「星のや竹富島」への配属は自身で希望したのでしょうか。

小山:第一志望で沖縄を希望しました。寒いのが苦手だったこともあり、エントリーシートには沖縄に配属してほしいことを匂わせる内容にし、念願叶って竹富島に赴任することになりました。

高橋:市川さんはいかがでしょうか。キャリア採用で移住されたとのことですが。

市川:私は大阪や広島、山口に住んだことがあり、飲食店で10年ほど働いていました。そんなとき、旅行で沖縄を訪れた際に海の綺麗さに感動し、いつか沖縄に住んでみたいと思うようになっていったのです。とはいえ、いきなり移住するのはハードルが高すぎますよね。そこで、仕事はいったん区切りをつけ、「お試し」としてリゾートバイトで竹富島に行き、2年ほど働いてみました。

高橋:移住に踏み切るきっかけがお試し期間中にあったのでしょうか。

市川:ちょうどそのとき、「星のや竹富島」が地域と非常に密接に関わっていることを知り、強く感心させられたのを今でも覚えています。沖縄が好きだからという理由だけでなく、暮らしの中で地域と関わりながら働きたいと強く思うようになり、星野リゾートに入社しました。

高橋:都会での生活と比べ、竹富島での暮らしはどのような違いを感じますか。

小山:竹富島では「仕事」と「暮らし」と「文化」がすべてつながっていると強く感じます。東京にいた頃は、家で食事し、電車で通勤し、仕事をして帰るといったように、生活が分断していました。しかし竹富島では、例えば朝6時半に誰もいないビーチで子供と泳ぎ、その後に庭の掃き掃除をします。そこで感じた季節の移ろいや豊かさを、そのまま仕事でお客様に伝えることができるんです。こうした自然なつながりが心地よく感じますね。

さらに、島の方と何気なく話したことが、翌日の仕事のヒントになることも多々あります。また、祭事の時期には踊りの練習をしたり、人間国宝の方が作った衣装を間近に見たりすることもあります。日々の仕事と普段の暮らし、島ならではの文化が密接につながっているという感覚は、都会ではあまり感じられないのではないでしょうか。

写真4:休日は島の祭事に参加する小山隼人さん

高橋:市川さんは、移住の際に不安に感じたことはありますか。また、休日はどう過ごしているのでしょうか。

市川:実家から遠く、なかなか帰れないのではないかという不安はありました。そのため、私は最初から竹富島に住むことに固執せず、石垣島に住み、そこからフェリーで竹富島に通うことにしました。移住といってもさまざまな選択肢があると思います。自分に合う暮らし方や住む場所を見つけることが、地方への転職を支えてくれるのではないかと考えます。

休日は、ダイビングを楽しんだり別の島へ遊びに行ったりするなど、プライベートの時間がとても充実しています。都会にはたくさんのモノがあり買い物も楽しいですが、地方独自の良さを感じながら過ごせています。不便なことさえ楽しめるようになればどこでも生きていける、そんな考えで日々を楽しむようにしています。

写真5:波照間島で休日を満喫する市川和美さん

地域に馴染むほど生活はさらに豊かに

高橋:地方への移住や転職はハードルが高い、と思う人は少なくありません。こうした方々が地方に移住したり転職したりするには、どんな点に気をつければよいでしょうか。どんな考え方を持つべきだと思いますか。

小山:地方の魅力は、仕事と暮らし、文化、そして豊かな自然環境がすぐ近くで混じり合っていることです。竹富島のように、伝統工芸や文化が息づく中で暮らすことは人生を豊かにしてくれます。さらに、「地域に恩返ししたい」「自分の持っている力で地域貢献したい」という気持ちも自ずと芽生えます。こうした地域とのつながりを持つことでさらに豊かな気持ちになれるので、ぜひ一歩を踏み出してみてほしいですね。

市川:地方だからこそ、自然の中で遊んだり独自の文化を体験したりできるのではと思います。こうした1つひとつの体験が、プライベートを充実させてくれます。転職を考えている人の多くが条件面を気にしがちですが、移住を伴う場合は、それよりも「そこで生活できるかどうか」が大切です。私のように、一度お試しで住んでみたり、実際に街を歩いて空気を感じたりすることをお勧めします。自分なりの楽しみ方を見つけ、不便さも含めて楽しむ力を身につけることで、生活はもっと豊かになると思います。

高橋:貴重なご意見、大変参考になりました。本日はありがとうございました。

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地方創生ジャーナル編集部

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