インタビュー

地方転職者と採用担当者が語る「山梨での転職」、従業員の働きやすさと優秀な人材を確保するために地方企業が取り組む秘策とは

この人にインタビュー

小林正人

小林正人さん  / 株式会社ササキ 山梨本部本部長

今宮奈緒美

今宮奈緒美さん  / 株式会社ササキ WHP事業部製造部

東京方面への人口流出が続く山梨県。地元に拠点を構える企業にとって、優秀な人材をどう確保するかが喫緊の課題となっています。そのような中、他県からの移住転職者を積極的に迎え入れ、人材の獲得と定着で効果を上げている企業があります。それが、株式会社ササキです。

今回は、埼玉県から山梨県に移住して株式会社ササキに転職したWHP事業部製造部 今宮奈緒美氏と、山梨県での事業から採用までを統括する山梨本部本部長 小林正人氏に、地方転職を成功させる秘訣から地方企業が実践すべき採用戦略のヒントまで話を聞きました。

富士山の近くで働きたいという直観で選んだ山梨への移住

――今宮さんにお聞きします。ササキに入社するまでのご経歴を教えてください。

今宮:岐阜県内の高校を卒業後、東京都内でサービス業を展開する会社に就職しました。しかし接客業は魅力的な仕事である半面、精神的に疲れる機会も少なくありません。働き続ける中で、「手を動かしてモノを生み出すモノづくりに関わりたい」と次第に思うようになったのです。その後、埼玉県内の企業に転職し、工場で約12年間勤めました。工場勤務を通じて、モノづくりの楽しさは自分に合っていると感じるようになりました。

それから工場を辞めて事務員として働いた期間もありましたが、「やはり現場で働く方が向いている」と改めて気付いたのです。ぼんやりと転職を考えているとき、たまたま空を見上げたら富士山がうっすら見え、「次はあの近くで働きたい」という直感が走って引っ越しを決意しました。ちなみに、富士山と言えば静岡県と思う人もいるでしょうが、埼玉県に住んでいたときに岐阜県の実家に帰る際には中央自動車道を通っており、山梨県の方が馴染みがあることから山梨県に決めました。

山梨県への移住とササキに転職するまでの経緯を話してくれたササキ WHP事業部製造部 今宮奈緒美氏

――先に場所を決めてから仕事を探したのですね。転職活動はどのように進めましたか?

今宮:山梨県甲斐市に引っ越しましたが、韮崎市に近い場所だったこともあり、韮崎市のハローワークに行って職探しをしました。製造業で土日休みなどの条件で探してもらったところ、2〜3社紹介してもらい、そのうちの1社がササキでした。

仕事の内容が自分に合っていると感じ、ササキにのみ応募しました。その後はとんとん拍子で進んでいき、採用していただきました。年齢的に厳しいのではと心配していましたが、無事に採用されて良かったと思います。

縁のない土地でも仕事とプライベートを両立する充実の日々

――2017年に入社してから9年間。具体的にどのような業務に携わってきたのでしょうか。

今宮:最初の8年は製造部門で、ササキが取り扱うケーブルや機器などの組み立てに携わっていました。2025年に異動し、現在は品質管理の業務に従事しています。当社ではクライアントから受注した製造案件をパートナー企業に委託することがあります。その際に不適合品ではないかをパートナー企業と一緒に確認しながら改善していくのが現在のミッションです。

――これまでの人生でまったく縁のない山梨県での生活。この9年間を振り返っていかがですか。

今宮:引っ越した当初から非常に過ごしやすいと感じています。山梨県は東京に遊びに行こうと思えばすぐに出られるし、岐阜の実家にも帰りやすくなったしメリットしかないですね。「山梨は寒そう」と勝手に思い込んでいましたが、実際にはこれまで住んだ土地と大した違いは感じられませんでした。

山梨県に引っ越してしばらくして、こちらで一軒家を購入しました。もちろんこのまま山梨県に定住するつもりです。以前の環境のままでは金銭面で家を購入できず、定住を決められなかったと思います。現在は家を購入したことで猫を飼い始めるなど、プライベートも大いに充実していますね。

当初は周囲に知り合いがいないことを心配しました。しかしこうした不安は会社が解消してくれました。ササキではさまざまな社員向けの交流イベントを開催しており、社員同士はもとより社員の家族も含めた交流が盛んです。こうした機会を通じて社内外に多くの知り合いを増やすことができました。

「まず動く」の姿勢が地方転職や移住を後押し

――地方転職や地方移住を検討している人に、アドバイスをいただけますか。

今宮:山梨県に限れば、都市部にアクセスしやすいことから過度な田舎ではない地方暮らしを体験できます。「地方は交通の便が悪い」や「近所にコンビニやスーパーマーケットがない」などの不安から地方移住や地方転職に踏み切れない人にとって山梨県はおすすめです。

中には、念入りに準備してから地方に引っ越そうと考えたり、十分調べてから転職先を絞ったりする人もいると思います。決して悪いことではありませんが、考えれば考えるほど不安は膨らむものです。地方転職や地方移住で大切なのは、まずは動くことだと思います。どれだけ調べても、実際に住んでみなければ分からないことは多々あります。実際に働いてみないと気付かないこともたくさんあるでしょう。あれこれ心配する前に行動し、分からないことや気付かないことを実際に体験すべきだと思います。積極的に行動することが、馴染みのない土地での暮らしを楽しくさせてくれるはずです。より豊かな暮らしへと繋がっていくでしょう。地方での暮らしや仕事をポジティブに受け入れ、楽しもうとする姿勢を持つことが地方転職や地方移住を成功に導くのではと思いますね。

精密部品メーカーが語る地方採用のリアル

――続いてササキの採用活動について小林さんにお聞きします。まずはササキの事業内容と主な採用方法を教えてください。

小林:当社はさまざまな機器で使われるケーブルなどのワイヤーハーネスを製造する会社です。山梨県に製造拠点を構えるほか、宮城県にも製造拠点と物流拠点を構え、電子機器の組み立てやBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)なども含めた事業を展開しています。

採用は原則として現地で採用するよう心掛けています。山梨と宮城各拠点の管理部が採用活動を進め、ハローワークや主要な求人媒体などを通じて求人情報を公開するようにしています。

――多くの地方企業が優秀な人材の獲得に苦戦しています。採用面の課題や不安があれば教えてください。

小林:当社では精密機器を扱っていることから、細かい作業を要する業務が少なくありません。こうした作業に向くかどうかを見極めることが採用時には求められます。もっとも、細かな作業に向く人材は必ずしも少ないわけではありません。繊細さや器用さという点では、女性が活躍しやすい業務といえます。そのため、子育て中だったり勤務時間を制限したりしたい女性こそ働きやすい環境で、働き方に条件のある女性も積極的に採用するようにしています。「モノづくりに精通する人材を獲得できない」などの課題を抱える地方の製造業ほど、人材獲得に困っているわけではありません。

ササキの強みや応募者を増やすための取り組みを説明したササキ 山梨本部本部長 小林正人氏

ただし、より精工で高品質な機器を製造する場合、製造技術の高度化は避けられません。そのため、こうした技術に精通する専門性の高い人材が必要となります。専門的な人材をどう集め、採用に結び付けるかは当社の喫緊の課題として対策を練るようにしています。

認定取得と工場見学で生まれた採用の好循環

――地方に拠点を構える企業として、採用活動で工夫していることがあれば教えてください。

小林:ササキという会社を知ってもらうため、オープンな環境や姿勢を全面に出すよう心掛けています。例えば山梨県にある工場は2022年11月の竣工にあたり、当初から「働きやすい工場」や「見せる工場」をコンセプトに設計しています。具体的には工場内の壁を取り除いて開放感を出したほか、工場内にある役員室をガラス張りにするなどして密閉空間を排除しました。従業員の心理的安全性を高められるデザインにし、工場で働くすべての人が気軽に相談したり、気兼ねなく意見したりできるようにしています。もちろん応募者の工場見学も可能で、当社での働き方を事前にイメージできるよう配慮しています。そのほか、きれいな食堂や社内に設置したフィットネスジムも福利厚生の一環として多くの従業員に評価してもらっています。

働きやすさを徹底追及した工場を併設するササキ本社・山梨本部

ハローワークの求人情報を丁寧に書いても、具体的な働き方を十分イメージしてもらえないかもしれません。ホームページに自社を紹介する写真を多数掲載しても、応募者に正しい情報を伝えられないかもしれません。求人情報やホームページに載せる情報には細心の注意を払う一方、当社では現場を実際に見てもらうことを強く推奨しています。応募者本人が工場を実際に見て感じたことが、「ここで働きたい」という思いをより強く抱かせてくれるのではないかと考えています。

――働きやすい環境を整える以外に取り組んでいることがあれば教えてください。

小林:女性が多く働いていることから、女性の活躍を認定する制度を取得するよう努めています。例えば、女性の活躍を推進する企業を認定する厚生労働省の「えるぼし認定」、従業員の子育て支援に積極的に取り組む企業を認定する厚生労働省の「くるみん認定」を取得しています。そのほか、山梨県独自の「クリスタルえるみん」や「女性いきいき宣言企業」、「子育て応援団」などの認定も取得しています。

もっともこれらの認定は採用活動を目的に取得したわけではありません。会社として働きやすい環境を築く一環で長く取り組み続けてきたものです。こうした取り組みが結果として、応募者を増やす効果に寄与していると考えます。各種の認定取得は、地方企業にとって自社の魅力や姿勢をアピールする武器になるのではと考えます。

県外人材の獲得へ。住宅支援とキャリア伴走で「選ばれる会社」へ

――山梨県は人口減少が続いているようですが、県外の人材を獲得することについてどのようにお考えでしょうか。

小林:山梨県の人口は80万人を下回り、若者の東京流出も続いています。専門的なスキルや知見を持つ人材を確保しようとしたとき、県内在住者だけにフォーカスしていても限界があります。

そこで2026年から、県外から引っ越してくる方への住宅手当として家賃補助制度を導入しました。今宮さんが入社した当時はこのような支援策がありませんでしたが、今後は県外から来られる方の負担を減らせるような環境も徐々に整えていきたいと思っています。

一方、当社では入社後の定着を見据えた取り組みにも注力していますプロのキャリアコンサルタントを招き、個別のキャリアアップやリスキリング策などをアドバイスできるようにしました。1on1の面談などを通じて、「自分はどういう目標を持ってササキで働いていくか」を一緒に考えてもらっています。採用して終わりではなく、長く活躍し続けてもらうための支援や環境づくりが、これからの地方企業には不可欠だと思っています。

――最後に、採用に悩む地方企業へメッセージをいただけますか。

小林:地方企業が優秀な人材を獲得するには、求職者に「ここで働きたい」と興味を持ってもらえるかどうかに尽きると思います。そのため当社では、興味を持ってもらえるような求人情報を作成したり、国や自治体の認定を取得して実績を示したりしています。応募者にはできるだけ工場を見てもらうことも推奨しています。採用に十分な予算を充てられずとも、試行錯誤しながら地道に工夫し続けることで確実に変わっていくと思います。自社が周囲からどのように見られているのかを考え、「面白そう」や「楽しそう」「働きやすそう」と思ってもらうための策を講じることが大切だと考えます。こうした姿勢を打ち出すことが、地方で「選ばれる会社」になるための第一歩だと思います。

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地方創生ジャーナル編集部

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