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データで見る県民所得ランキング47/和歌山が大阪を上回るのはなぜ?ランキングに隠れた「所得」の正体

和歌山県は345.6万円、大阪府は345万円——。これは、2023年度の「1人当たり県民所得」です。全国順位では和歌山県が10位、大阪府が11位。わずか6000円差とはいえ、和歌山県が大阪府を上回っています(内閣府「県民経済計算 2023年度」)。

では、和歌山県で暮らす人の方が、大阪府で暮らす人より「所得が高い」のでしょうか。実は、このランキングはそう単純には読めません。「1人当たり県民所得」は、一人ひとりの年収や手取りを示す数字ではないのです。しかも、数字が上がっていても、地域全体の所得まで増えているとは限りません。

では、このランキングは何を映しているのか。和歌山県、大分県、岩手県。3県の数字を追っていくと、「所得が高い県」という言葉だけでは見えてこない、地方経済の異なる姿が見えてきます。地方転職や地方副業、関係人口などで地域と関わりたいと考えるとき、ランキングの数字をどう読むのが望ましいか。3県の事例から、その見方を整理します。

そもそも「県民所得」とは?何のための指標か

ランキングを見る前に、「県民所得」が何を測る数字なのかを押さえておきます。

県民所得は、内閣府が都道府県ごとに作成している統計「県民経済計算」の指標の1つです。県民経済計算は、都道府県の経済の循環と構造を、生産・分配・支出などの面から数字で捉えることで県経済の実態を包括的に明らかにし、県の行財政・経済政策に役立てることを目的としています(内閣府「県民経済計算 統計の目的」)。

このうち県民所得は、県民が1年間に得た所得を、給与だけでなく企業の利益なども含めて合計したものです。つまり、その県の経済全体がどれだけの所得を生み出し、受け取っているかという「経済全体の所得水準」を表しています。これを人口で割った「1人当たり県民所得」は、人口の規模が違う県どうしを比べられるようにした値です。

ただし、内閣府の資料も、1人当たり県民所得は個人の所得水準を表すものではなく、企業利潤なども含んだ経済全体の所得水準を表していることに注意が必要だと説明しています(内閣府ESRI「県民経済計算の分析」)。ランキングから分かるのは「県の経済全体が生んだ所得の大きさ(人口1人当たりに均した値)」であり、「そこで暮らす人の年収や暮らしの豊かさ」ではありません。

データで見る「1人当たり県民所得」ランキング47

内閣府は「県民経済計算」として、都道府県ごとの1人当たり県民所得を毎年公表しています。この指標には物価変動を除いた実質値はなく、公表されているのは名目値のみです(内閣府ESRI「県民経済計算の分析」)。

比較対象は、内閣府データがそろう42都道府県に、石川県、奈良県、香川県、宮崎県の4県を各県公式発表値で補った46都道府県です※1。

都道府県ごとに色分けすると、東京都が突出する一方、地方にも意外な顔ぶれが並んでいることが分かります。

色が濃いほど1人当たり県民所得が高いことを示します。東京都が飛び抜けて濃い一方、福井県、栃木県、茨城県、群馬県、富山県、和歌山県など、必ずしも大都市圏とはいえない県にも濃い色がついているのが特徴です。

具体的な数値を順位で見ると、以下の通りです。

上位には東京都、愛知県、静岡県といった大都市圏に加えて、福井県、栃木県、茨城県、群馬県、富山県、和歌山県が並びます。「大都市ほど高く、地方ほど低い」という単純な並びにはなっていないことが見て取れます。

中でも目を引くのが、10位の和歌山県が11位の大阪府を上回っている点です。ここから、和歌山県を入り口に「1人当たり県民所得」という指標の中身を見ていきます。

県民所得は何でできているのか

「1人当たり県民所得」を正しく読むには、分子にあたる「県民所得」が何でできているかを知っておく必要があります。

図1:県内総生産と県民所得の構成(出典:内閣府「県民経済計算標準方式」「県民経済計算推計方法ガイドライン」をもとに作成)※県内総生産は、県内の生産活動によって生み出された付加価値を表す一方、県民所得は県民に帰属する所得を表す。県内で生み出された所得と県民が受け取る所得は、県外との所得の受け払いがあるため一致しない

県民所得は、大きく3つの要素からなります。1つ目は、働く人が受け取る給与にあたる「雇用者報酬」。2つ目は、預金の利子や株式の配当など、家計や企業が保有する資産から生まれる「財産所得」。3つ目は、企業の営業利益にあたる「企業所得」です(内閣府ESRI「県民経済計算の分析」)。

この3つを合計した「県民所得」を人口で割ったものが、「1人当たり県民所得」です。つまり、雇用者報酬(給与)だけでなく、企業の利益や財産所得も分子に含まれるうえ、分母は人口であるため、地場企業の利益率が高い地域や、人口が少ない・減っている地域では、個人の実感より高く算出される傾向があります。

では、この3つの要素は、実際の県ではどのような割合になっているのでしょうか。和歌山県を例に見ていきます。

和歌山|順位を押し上げていたのは、企業の利益と人口減少

和歌山県の2023年度の県民所得3兆820億円を、3つの要素に分解すると、雇用者報酬が1兆5999億円(構成比51.9%)、財産所得が1531億円(同5.0%)、企業所得が1兆3290億円(同43.1%)でした(和歌山県「2023年度県民経済計算の概要(系列別)」)。

和歌山県にある海南港周辺の臨海工業地帯。和歌山県で1人当たり県民所得を押し上げているのは、特定の産業の好調によるものではなく、企業所得の比重の大きさと人口減少という構造的な要因だった

和歌山県の場合、企業所得だけで県民所得の43.1%を占めています。「1人当たり県民所得345.6万円」には、給与にあたる雇用者報酬以外の要素がかなり含まれていることが分かります。

この関係は、労働分配率(雇用者報酬÷県民所得)という指標でも確認できます。和歌山県では、労働分配率が2013年度の54.4%から2023年度は51.9%へ低下しました(同資料より)。県民所得に占める給与部分の割合が下がっている、ということです。

県民所得は雇用者報酬・財産所得・企業所得の3つの合計であるため、給与部分の割合が下がった分は、ほかの2つの割合が上がったことを意味します。実際、2013年度から2023年度にかけて、企業所得の構成比は41.1%から43.1%へ、財産所得は4.5%から5.0%へ上昇しました。低下した2.5ポイントのうち、約2.0ポイントは企業所得の割合が増えた分にあたります。この間、雇用者報酬は+3.0%の増加にとどまった一方、企業所得は+13.3%、財産所得は+20.0%増加しており、給与よりも企業の利益や資産収入の方が大きく伸びたことが背景にあります(和歌山県「主-2 県民所得及び県民可処分所得の分配」より)。

さらに、「1人当たり」である以上、人口という分母にも左右されます。2023年度の和歌山県では、県民所得の総額は前年度比▲1.0%(3兆820億円)と減少しているにもかかわらず、1人当たり県民所得は+0.3%(345万6千円)と増加しました。人口が89.2万人(2023年10月1日現在)へ減ったことで、総額が減っても1人当たりの値は増えるという結果になっています(和歌山県「2023年度県民経済計算の概要」)。

この10年間の推移で見ても、同じ構図が確認できます。2013年度から2023年度にかけて、和歌山県の県民所得は2兆8540億円から3兆820億円へ8.0%増加した一方、人口はおよそ98.0万人から89.2万人へ、10年間でおよそ9.0%減少しました。所得の増加と人口の減少がどちらも1人当たりの値を押し上げる方向に働いた結果、1人当たり県民所得は291.1万円から345.6万円へ、18.7%増加しています(和歌山県「主-2 県民所得及び県民可処分所得の分配」)。

和歌山県の1人当たり県民所得が大阪府を上回っているのは、特定の産業が大阪府より優れているからではなく、県民所得のうち企業所得の比重が大きいことと、人口減少という分母の効果が重なった結果です。和歌山県との関わり方を考えるなら、「所得が高い県」という数字だけでなく、その中身が給与なのか、企業の利益なのかを合わせて見ておくべきです。

大分|経済そのものが大きくなった県は?

和歌山県は、所得の中身と人口減少の効果で1人当たりの値が押し上げられていました。では、所得そのものが本当に大きく伸びた県はあるのでしょうか。

その代表例が大分県です。大分県の1人当たり県民所得は、2013年度の236.7万円から2023年度は304.2万円へ、42都道府県中もっとも高い28.5%の伸びを記録しました(大分県「令和5年度県民経済計算の概要」)。

同じ10年間で、県民所得の総額も2兆7927億円から3兆3348億円へ19.4%増加しています。内訳を見ると、雇用者報酬が+10.7%、財産所得が+23.1%、企業所得が+44.3%と、3つの要素すべてが増加しました。中でも企業所得の伸びが突出しており、企業所得のうち民間法人企業の所得は3814億円から7058億円へ、85.1%増加しています(大分県「令和5年度県民経済計算(全文)」)。

大分市街地+臨海部のコンビナート景観。この10年で鉄鋼・非鉄金属・電子部品デバイスなどの素材・部品産業が拡大し、県内総生産・企業所得を押し上げてきた

同じ期間には、製造業の名目県内総生産も9854億円から1兆5060億円へ52.8%拡大しており、2023年度時点で県内総生産の29.6%を占めています。企業所得と製造業の県内総生産は別の統計であり、一方が他方の直接の原因とまでは言えませんが、企業所得(特に民間法人企業所得)と製造業がともに大きく伸びた期間だったことが分かります(同資料より)。

こうした所得そのものの伸びを反映して、全国の1人当たり国民所得を100とした場合の大分県の水準(県/国格差指数)も、2013年度の80.9から2023年度は86.4へ、10年間で5.5ポイント縮小しました(同資料より)。

大分県の1人当たり県民所得の伸び(28.5%)は、県民所得総額の伸び(19.4%)を上回っています。人口が10年間でおよそ7.1%減少していることを踏まえると、大分県でも人口減少による押し上げが一定程度働いていますが、それ以上に、雇用者報酬・財産所得・企業所得のすべてが伸びたという、所得そのものの成長が伸び率を押し上げた中心にあります。大分県を地方副業や転職の候補として考えるなら、和歌山県とは異なり、企業所得や製造業といった経済活動そのものが伸びている県だという点に注目したいところです。

岩手|逆に「1人当たり」だけが増えることもある

大分県とは反対に、県民所得の総額が減っているのに、1人当たりの値だけが増える県もあります。岩手県です。

岩手県の1人当たり県民所得は、2013年度の269.5万円から2023年度は283.5万円へ、5.2%の増加にとどまりました。42都道府県中でも最下位クラスの伸びで、順位も25位から38位へ、42都道府県中で唯一2桁の下落(-13ランク)となっています(岩手県「令和5年度岩手県県民経済計算年報」)。

伸び率が小さいにもかかわらず1人当たりの値が増えているのは、県民所得の総額がむしろ減っているためです。2013年度から2023年度にかけて、県民所得の総額は約3兆4991億円から3兆2981億円へ5.7%減少しました。内訳を見ると、雇用者報酬は+10.6%、財産所得は+15.5%と増加した一方、企業所得は1兆2433億円から7959億円へ36.0%減少しており、県民所得に占める企業所得の割合も35.5%から24.1%へ低下しています(同資料より)。

企業所得が大きく減っているにもかかわらず1人当たりの値が増えているのは、人口の減少幅がそれ以上に大きいためです。県民所得の総額と1人当たりの値から人口を逆算すると、2013年度の約129.8万人から2023年度は116.3万人へ、10年間でおよそ10.4%減少したとみられます※2。

企業所得が減った背景には、東日本大震災の復興需要の反動があります。岩手県内の建設業は、震災復興需要により平成24年度の5139億円から平成27年度には6930億円まで拡大しましたが、その後は復興需要の収束とともに縮小しました(岩手県公式資料)。

一方で、岩手県はものづくり産業の集積・高度化が県民所得の増加に寄与したとも説明しています。県内の製造品出荷額は、2021年度に約2兆7100億円と、5年前と比較して約14%増加しており、出荷額全体の約4割を自動車・半導体関連産業が占めています(岩手県議会会議録)。

北上盆地・岩手山方向の広域空撮。震災復興需要の収束などを背景に県民所得総額は10年で減少した一方、自動車・半導体関連などのものづくり産業の出荷額は拡大している

岩手県のケースは、「1人当たりの値が増えている=その地域の経済が拡大している」とは限らないことを示しています。岩手県との関わり方を考えるなら、1人当たり県民所得の伸びよりも、企業所得や製造業といった実体経済の動きを合わせて見ておくべきでしょう。

3県を並べると、「同じ上昇」の意味が違う

和歌山県、大分県、岩手県は、いずれも2013年度から2023年度にかけて1人当たり県民所得の伸び率が、県民所得総額の伸び率を上回っていました。しかし、その中身はまったく異なります。

2013→2023年度
変化率
和歌山大分岩手
県民所得総額+8.0%+19.4%▲5.7%
1人当たり県民所得+18.7%+28.5%+5.2%
人口▲9.0%▲7.1%▲10.4% ※2
概要企業所得が県民所得の43.1%を占め、労働分配率は51.9%まで低下雇用者報酬・財産所得・企業所得のすべてが増加、なかでも民間法人企業所得が+85.1%雇用者報酬・財産所得は増加も、企業所得が▲36.0%と大きく減少
図2:和歌山県、大分県、岩手県の県民経済計算の推移(出典:各県『県民経済計算』をもとに作成)

大分県は、所得そのものが全面的に伸びたことで1人当たりの値が押し上げられました。和歌山県が人口減少と、既存の素材型産業による企業所得比率の高さで1人当たり指標が押し上げられているのに対し、大分県は経済規模(県内総生産・企業所得)そのものが一回り大きく成長しています。その成長を牽引したのは、10年間で付加価値額が約10倍に拡大した非鉄金属、約3.9倍に伸びた電子部品・デバイス、そして絶対額の伸びが最も大きかった鉄鋼です(大分県「令和5年度県民経済計算(全文)」より)。グローバルな高付加価値素材・部品需要の拡大を追い風にした変化だったと言えます。和歌山県は、所得の伸びに加えて企業所得の比重の大きさが、1人当たりの値を押し上げています。岩手県は、所得の総額がむしろ減るなかで、人口減少の効果だけが1人当たりの値を押し上げていました。

同じ「1人当たり県民所得が伸びた」という結果でも、その内実は一様ではありません。

ランキングは「順位」より「中身」を見る

ここまで見てきたように、「1人当たり県民所得」というランキングの数字だけを見ても、その県の個人の所得水準や、経済の勢いを正確に知ることはできません。和歌山県が大阪府を上回っていたのは、県民の給与水準が高いからではなく、県民所得に占める企業所得の比重と、人口減少という分母の効果によるものでした。大分県のように所得そのものが伸びている県もあれば、岩手県のように所得の総額は減っているのに1人当たりの値だけが増える県もあります。

なお、都道府県間のばらつきを示す変動係数(42都道府県、母集団標準偏差÷平均)をみると、2013年度の19.13から2023年度は17.85へ低下しており、10年間では都道府県間の所得の地域差は縮小しています。一方、2020年度の15.56を底に、直近では再び拡大に転じています(内閣府横断表より算出)。長期的には地域差が縮小しつつも、直近では再び差が広がりつつある、というのが現状です。

地方転職や地方副業、関係人口として特定の地域に関わり始める際、「1人当たり県民所得が高い=個人の給料が高い地域」と鵜呑みにするのは危険です。大分県のように地場産業や企業活動そのものが成長している地域なのか、和歌山県のように企業所得や特定の産業構造に強みがある地域なのか。数字の「中身」を紐解くことで、自分のスキルや経験をどの地域のどんな産業で活かすべきかという、自然なマッチングのヒントが見えてきます。


※1 内閣府「県民経済計算」で2023年度の1人当たり県民所得が確認できる42都道府県に、石川県・奈良県・香川県・宮崎県の4県公式発表値を加えたものが46都道府県です。徳島県は、2023年度の県民経済計算が2026年9月時点で未公表のため、対象外としています(徳島県「県民経済計算」、内閣府「県民経済計算 2023年度」)。10年間の伸び率・順位変動に関する記述は、内閣府データがそろう42都道府県で算出しています。 ※2 岩手県は、大分県・和歌山県のように2013年度時点の人口が公式資料で明記されていないため、県民所得総額と1人当たり県民所得から逆算した推定値です。大分県・和歌山県の人口変化率(公式の人口実数にもとづく)と比べて、算出の確からしさはやや劣ります。


【出典】 内閣府「県民経済計算」都道府県別データ(総括表7「1人当たり県民所得」、2026年8月7日公表分) 内閣府ESRI「県民経済計算の分析」論文(県民所得の定義・変動係数) 和歌山県「2023年度県民経済計算の概要」 和歌山県「2023年度県民経済計算の概要(系列別)」 和歌山県「県民経済計算」統計表掲載ページ(「主-2 県民所得及び県民可処分所得の分配」統計表を含む) 大分県「令和5年度県民経済計算の概要」 大分県「令和5年度県民経済計算(全文)」 岩手県「令和5年度岩手県県民経済計算年報」 岩手県公式資料(建設業の推移) 岩手県議会会議録(製造品出荷額) 石川県「令和5年度県民経済計算概要」 奈良県「令和5年度奈良県県民経済計算」 香川県「令和5年度県民経済計算」 宮崎県「令和5年度宮崎県県民経済計算の概要」 徳島県「県民経済計算」公式ページ
参照日:2026年9月18日

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地方創生ジャーナル編集部

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